お題の説明:
愛(読み)あいする
精選版 日本国語大辞典 「愛」の意味・読み・例文・類語
あい‐・する【愛】
〘他サ変〙 あい・す 〘他サ変〙
[一] 人や動物に対して心が引かれる場合。
① 非常に気に入って、いちずにかわいがる。寵愛する。
※大鏡(12C前)六「寛平の御孫なりとばかりは申しながら、人の御ありさま有識におはしまして、いづれをも村上のみかど時めかし申させ給ひしに、いますこし六条殿をばあいし申させ給へりけり」
※堤中納言(11C中‐13C頃)虫めづる姫君「この虫どもを朝夕(あしたゆふべ)にあいし給ふ」
② 好意を相手への行動として示す。また、特に、なでさする。愛撫(あいぶ)する。
※今昔(1120頃か)三一「今夜正しく女の彼の許に行て、二人臥して愛しつる顔よ」
③ (男女の間で)慕わしく思う。好きだという気持になる。恋しく思う。
※人情本・春色辰巳園(1833‐35)初「これは仇なる男などの、深くも愛せずさすがに捨もやらぬを」
※浮雲(1887‐89)〈二葉亭四迷〉三「苟(かりそ)めにも人を愛するといふからには」
[二] 物事に対して心が引かれる場合。
① 貴さ、美しさなどを感じて、強く好きに思う。
※今昔(1120頃か)一九「此の硯を取出して見るに、〈略〉云はむ方无(な)く微妙なれ、愛して、手裏(てのうち)に居(すゑ)て差上げ差下し、暫く見る程に」
※徒然草(1331頃)三八「誉(ほまれ)を愛するは、人の聞(きき)をよろこぶなり」
② 美しさ、おいしさ、良さなどを好んでそれを楽しむ。愛好する。賞美する。
※今昔(1120頃か)二〇「『故別当の肉村(ししむら)なれば、吉きなめり。此の汁飲れよ』と妻(め)に云て、愛し食(くらひ)けるに」
※俳諧・去来抄(1702‐04)先師評「古人も此国に春を愛する事、おさおさ都におとらざる物を」
[三] (一説、相(あい)する) 適当に扱う。子供などのきげんをとる。あやす。
※今鏡(1170)八「ちちのみやみ給て、まろをおきて若宮はあしくよみ給かなどあいし申給けるとぞ人のかたり侍し」
※平家(13C前)九「是程の大勢の中へただ二人いったらば、何程の事をかしいだすべき。よしよししばしあひせよ」
[四] (キリスト教で)神が、あらゆるものをいつくしむ。また、そのような精神で、自分以外のものをかけがえのないものと思う。
※引照新約全書(1880)馬太伝福音書「己の如く爾の隣を愛(アイ)すべし」
[語誌](1)対象となるのは人・動植物・物事などさまざまであるが、対象への自己本位的な感情や行為を表わすことが多い。また、人に対して使う場合は目上から目下へ、強者から弱者へという傾向が著しかった。
(2)明治中期love lieben などの翻訳語として採用され、西洋の「愛」と結びついた結果、人に対しては、対等の関係での愛情を示すようになる。
(3)使役「せる(す)」受身「れる(る)」が付くときは、「せさせる(せさす)」「せられる(せらる)」となるが、近世以降詰まって「させる」「される」の形が現われる。樋口一葉「うもれ木‐六」の「喜ばれ度し愛されたし」、夏目漱石「それから‐一六」の「三千代さんの心機を一転して、君を元よりも倍以上に愛させる様にして」など。
あい【愛】
〘名〙
① 親子、兄弟などが互いにかわいがり、いつくしみあう心。いつくしみ。いとおしみ。
※梁塵秘抄(1179頃)二「遊女(あそび)の好むもの、雑芸(ざふげい)鼓(つづみ)小端舟(こはしぶね)、簦(おほがさ)翳(かざし)艫取女(ともとりめ)、男のあい祈る百大夫」
※太平記(14C後)二九「親にも超(こえ)てむつましきは、同気兄弟の愛(アイ)なり」 〔孝経‐聖治章〕
② 仏語。
(イ) 十二因縁の一つ。ものを貪(むさぼ)り執着すること。欲愛(性欲)・有愛(生存欲)・非有愛(生存を否定する欲)の三愛その他がある。
※正法眼蔵(1231‐53)仏教「十二因縁といふは、一者無明、二者行、三者識、四者名色(みゃうしき)、五者六入、六者触、七者受、八者愛、九者取、十者有、十一者生、十二者老死」 〔倶舎論‐九〕
(ロ) 浄・不浄の二種の愛。法愛と欲愛、善愛と不善愛などをいう。〔北本涅槃経‐一三〕
③ 子供などをかわいがること。愛撫(あいぶ)すること。幼児をあやすこと。
※鷺伝右衛門本狂言・縄綯(室町末‐近世初)「てうちゃくは致しませぬ愛を致しました」
④ (品物などに)ほれこんで大切に思うこと。秘蔵して愛玩(あいがん)すること。
※咄本・醒睡笑(1628)八「慈照院殿、愛に思召さるる壺あり」
⑤ 顔だちや態度などがかわいらしくて人をひきつけること。あいきょう。
※浮世草子・風流曲三味線(1706)二「都に名高き芸子瀬川竹之丞といへる美君に、今すこし愛(アイ)の増たる生れつき」
⑥ 人との応対が柔らかいさま。あいそ。
※浮世草子・好色二代男(1684)三「まねけばうなづく、笑へばあいをなし」
⑦ キリスト教で、神が人類のすべてを無限にいつくしむこと。また、神の持っているような私情を離れた無限の慈悲。→アガペー。
※詩人ブラウニング(1890)〈植村正久〉「我は上帝を信じ真理を信じ愛を信ずるなりと」
⑧ 男女が互いにいとしいと思い合うこと。異性を慕わしく思うこと。恋愛。ラブ。また一般に、相手の人格を認識し理解して、いつくしみ慕う感情をいう。
※舞姫(1890)〈森鴎外〉「貧きが中にも楽しきは今の生活、棄て難きはエリスが愛」
め・でる【愛】
〘他ダ下一〙 め・づ 〘他ダ下二〙 (対象に心がひかれ、感動したり、愛したりする気持が起こるのをいうのが原義か。従って、「に」を受けて自動詞的に用いる場合もある)
① 心がひかれ、いとしく思ったりかわいく思ったりする。愛賞する。愛する。
※書紀(720)允恭八年二月・歌謡「花ぐはし 桜の愛(めで) こと梅涅(メデ)ば 早くは梅涅(メデ)ず わが梅豆留(メヅル)児ら」
※竹取(9C末‐10C初)「いかで此かぐや姫をえてしがな見てしがなと音にききめでてまどふ」
② 心がひかれ、すばらしいと思う。感動する。ほめる。また、熱中する。
※催馬楽(7C後‐8C)鈴鹿川「鈴鹿川 八十瀬の滝を みな人の 女川留(メツル)も著く」
※太平記(14C後)一八「酒にめで引手物に耽りて」
③ 喜ばしく結構だと思う。祝うべきことと思う。
※東寺百合文書‐と・永仁二年(1294)正月四日・加治木頼平書状「年始御吉事。目出こそ思ひまいらせ候へ」
※満済准后日記‐正長二年(1429)二月一日「関御対治事。急速に御沙汰尤可二目出一也」
いとし・い【愛】
〘形口〙 いとし 〘形シク〙 (「いとおしい」の変化した語)
① かわいそうだ。ふびんである。痛わしい。
※虎明本狂言・鈍太郎(室町末‐近世初)「散々に申しておい出て御ざるが、いとしひ事を致た」
② かわいい。慕わしい。
※歌謡・閑吟集(1518)「いとしうもなひ物、いとおしいといへどなう、ああ勝事」
※桐の花(1913)〈北原白秋〉ふさぎの虫「俺は俺自身が愛惜(イトシ)い」
[語誌]用法としては古くは親から子に対するものが多かった。のち男女間に、近世には子・従者から親・主人にも用いられるようになる。→「いとおしい」の語誌。
いとし‐が・る
〘他ラ四〙
いとし‐げ(いとし‐なげ)
〘形動〙
いとし‐さ
〘名〙
はし【愛】
〘形シク〙
① いとおしい。かわいらしい。慕わしい。→はしきやし。
※万葉(8C後)三・四七四「昔こそよそにも見しか吾妹子が奥つ城と思へば波之吉(ハシキ)佐宝山」
② 美しい。
※邪宗門(1909)〈北原白秋〉魔睡・邪宗門秘曲「かの美(ハ)しき越歴機の夢は」
[補注]ウルハシのハシと同根か。平安時代以後は①の意ではカナシ、ウツクシが栄えた。現代語のカワイイに連なるカハユシは中世以後見られる。
かなしけ【愛】
〘形〙 「かなし」の連体形「かなしき」の上代東国方言。いとしい(こと・もの)。
※万葉(8C後)一四・三五五一「あぢかまの潟に咲く波平瀬(ひらせ)にも紐解くものか加奈思家(カナシケ)を置きて」
※万葉(8C後)二〇・四三六九「筑波嶺(つくばね)のさ百合(ゆる)の花の夜床(ゆとこ)にも可奈之家(カナシケ)妹そ昼も可奈之祁(カナシケ)」
あい‐・す【愛】
[1] 〘他サ変〙 ⇒あいする(愛)
[2] 〘他サ五(四)〙 (サ変から転じたもの) =あいする(愛)
※俳諧・奥の細道(1693‐94頃)松島「負へるあり抱(いだけ)るあり、児孫愛すがごとし」
※苦の世界(1918‐21)〈宇野浩二〉津田沼行「おなじ釜の飯をたべあった者を愛すなといって、愛さないでゐられませう」
う・い【愛】
〘形口〙 (ほとんど連体形の用法だけ) 好ましい。愛すべきだ。殊勝だ。けなげだ。主に目下の者にいう。
※狂言記・烏帽子折(1660)「『それがしがゑぼしが、はげてあったが、なにとした物であらふぞ』『こころへまして、此中ぬりにやって御ざりまする』『一段ういやつぢゃ、いそいでとってまいれ』」
※浄瑠璃・義経千本桜(1747)二「今の難義を救ふたるは業に似ぬうい働」
めだし【愛】
〘形シク〙 (動詞「めでる(愛)」から派生したもの) 愛(め)ずべき状態にあるさま。愛らしい。ほめたたえるべきである。
※仏足石歌(753頃)「薬師は 常のもあれど 賓客(まらひと)の 今の薬師 貴かりけり 米太志加利(メダシカリ)けり」
うつくしけ【愛】
(形容詞「うつくし」の連体形「うつくしき」にあたる上代東国方言) かわいい。
※万葉(8C後)二〇・四四一四「大君の命(みこと)かしこみ宇都久之気(ウツクシケ)真子(まこ)が手離り島伝ひ行く」
いとし・む【愛】
〘他マ五(四)〙 (「いとしい」を動詞化した語) =いとおしむ
※春の晩(1915)〈田村俊子〉八「子供をいとしむやうに、京子の頬に、幾重は頬を寄せた」
いとし【愛】
〘形シク〙 ⇒いとしい(愛)
め・ず めづ【愛】
〘他ダ下二〙 ⇒めでる(愛)
出典 精選版 日本国語大辞典- このフォーラムには0件のトピック、10件の返信があり、最後ににより2024年2月27日07:26に更新されました。
3. では、それが無ければ、今まで与えてもらっていた価値を、みんなが自分で全部、どのように満たしていけば良いのか?
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4. 改めてイメージしてみると、それがそこに存在できているのは、その周りの誰が(あるいは、何が)支えてくれているお陰なのか?
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